広田祐子
ピアニスト
東京生まれ。3歳よりピアノを始め、武蔵野音楽大学を卒業。クラシック音楽の学びは、日本文化に根ざした感性と断絶することなく、育まれていた。
父方の祖母は歌舞伎音楽・長唄の師匠、母方の祖母は情緒豊かな小唄の歌い手であり、音楽に満ちた家庭環境に育つ。また、父方の祖父・広田米太郎は、日本における初期のピアノ製作に携わったパイオニアの一人であり、その業績は現在も記録として残されている(Wikipedia掲載)。
後年、仏教音楽の調査のためにチベットを訪れた際、その地で耳にした素朴な歌声は、幼少期から親しんだ小唄の世界を彼女に思い起こさせた。
50年前にジュネーヴに留学し、ジュネーヴ音楽院のヴィルトゥオーゾ課程にてルイ・ヒルトブラン氏に師事、4年間にわたり研鑽を積んだ。以後パリに拠点を移し、エコール・ノルマル音楽院で室内楽をセルジュ・ブラン氏に、パリ市立音楽院では牧野謙(かとり) 氏に和声、対位法、楽曲分析を学ぶ。さらに作曲および日本伝統音楽を、作曲家であり民俗音楽研究者の丹波明氏に師事。
ピアニストとしては、日本、スイス、フランスを中心に数多くのリサイタルを開催。パリのスコラ・カントルム音楽院では、子どものピアノ教育にも携わり、後進の育成に力を注いでいた。
彼女が深く共鳴する作曲家は、バッハ、モーツァルト、シューベルト、ショパン、フランク、ドビュッシー、そして恩師ヒルトブラン氏。その教えから「内なる声に耳を澄ますこと」を学び、この精神的探求は、ユング派分析家エリー・アンベールとの出会いを経て、彼女自身の作曲活動へとつながっていった。
作曲家
短歌、雲水、パシュパティナート、ギーフル等のピアノ作品、歌曲朝ぼらけ、尺八とピアノのための浮き橋等
1998年にはアトリエ《Le Son des Choses(物の音)》を設立。日常の中にある物の響きを聴く空間をつくり、オブジェとピアノを使った舞台作品を創作。ピアノのあらゆる共鳴を活かした独創的な作品の創作、子どもや保育者・教育者への研修・ワークショップなども展開している。
コラボレーション
ダンス(舞踏・コンテンポラリー)、書、尺八、箏、茶道、俳句、詩、物語など、さまざまなアーティストとの共作も多数。
主な作品
《Noir et Blanc(黒と白)》: 2000年ニースのマティス美術館より委嘱され、ピアノ・詩・物の音のための作品を《マチス、秋の黒と白》展のために制作。同作品は2001年、ソルボンヌ大学「音楽と造形芸術」国際シンポジウムでも演奏された。
《Monde muet(沈黙の世界)》:フランシス• ポンジュ( Francis Ponge) の 詩の朗読者との共作を2001年 パリのモリエール劇場 - 詩の家で発表。詩人の春フェスティバルにてコンシェルジュリーでも再演。
《Autour de l’arboretum(樹木園をめぐって)》:詩と音楽のコンサート(2001年パリ、「ラ・アル・サン・ピエール」)
《Ephémères(儚きもの)》:舞踏との共演作品(2001年パリ、「ベルタン・ポワレ日仏文化センター」)
《Outre-temps(時を越えて)》:(2001年パリ、「ベルタン・ポワレ日仏文化センター」)
《Le Quotidien et le sacré(日常と聖なるもの)》:演劇・舞踊祭にて上演(2001年)
《La Cloche Oubliée(忘れられた鐘)》:音楽物語(2002年 パリ、「ラ・アル・サン・ピエール」)
CD『Rencontres(出会い)』:2003年、パリ、L’œil du Musicien ‘音楽家の目’からリリース(2006年 日本版も発売)
《Dans le silence(沈黙の中で)》:Dance Boxフェスティバル参加作品(2004年パリ、「ベルタン・ポワレ日仏文化センター」)
《Fleuve de Vie(いのちの流れ)》:子どもたちの手による“オーケストラ”とピアノ4手による協奏曲(2005年)
《ENFER AMPHORE ' 凝縮の意思と夢の輪郭' ( Hommage à Rodin et Matisse )(ロダンとマティスへのオマージュ)》:コンテンポラリーダンスと暗黒舞踏の出会い(2009年 マティス美術館)
https://www.youtube.com/watch?v=-4D8z47XBSg&t=8s&ab_channel=YukoHirota
NPO Piano-no-ki(ピアノの木):モンゴルテント、ゲルにて多数のコンサート・ワークショップを開催 : フォンテーヌブロー森の南 Vaux-sur-Lunain、パリの東 モンソー・レ・モー城で Château de Montceaux-lès-Meaux 2008~2011年。
社会的活動と自然の中での創作
2006年、パリでNPO《Piano-no-ki(ピアノの木)》を設立。2008年以降はモンゴルテント、ゲルを使って、自然の中での演奏・創作・遊びの場を展開。
2011年、原発事故後、福島とチェルノブイリの子どもたちをフランスに招き、自然の中で過ごす保養キャンプと子どもたちと一緒にソロと連弾のコンサートをから2019年まで、開催。https://pianonoki.wixsite.com/yukohirota/fukushima
2017年、原発事故をテーマとしたモノローグ作品《TSUNAMI INVISIBLE(見えない津波)》を共作・演出。
https://www.youtube.com/watch?v=cKHx-8Z7ZQs&t=7s&ab_channel=yukohirota
2023年には、カトマンズの寺院で出会った火葬の光景に触発され、ネパール人ダンサーとの共作《パシュパチナート》を創作。
また、近年は毎年8月6日、広島原爆の日にあたる日に、フランス西部サント市 Saintes にて「平和のための記念コンサート」に招かれ、若きフランス人ピアニストと連弾およびソロで演奏を行う。その冒頭には、師・ヒルトブランが広島に寄せて作曲した《Et après…?(そして、それから)》を演奏。この作品の終盤には中国地方の子守唄が静かに織り込まれており、祈りと記憶を音に託して届けている。
現在の活動
現在は、人生の終盤、ピアニストに立ち戻り、アーティストのミカエル・ランボーが内装した《Tree House》(パリ)にて、毎月ホームコンサートを開催。
https://www.youtube.com/watch?v=RpMxuVruljU&list=TLGGWB5lgN4GAvQxNTA2MjAyNQ&ab_channel=yukohirota
さらに2024年にはミカエルと日本の仲間たちとともに、高知県四万十町に自由な表現と出会いのためのフリースペースを創設。音楽・自然・こども・大人が一体となり、自由な遊びと癒しに満ちた空間を国内外に広げて行きたいと考えている。
2026年は私にとって不思議な年。
ピアノを始めてから70年
ジュネーヴ、パリに50年
NPO ピアノの木創設から20年
この140年祭を素敵なプロジェクトで楽しみたいと考えている。
静寂の調べに耳を傾け
心の囁きに吸い寄せられるままに
すべての見えない枠組みを離れて
自由に響く声 心の耳で